
「お祖母さん…」
「祖母…」
「暇ができたら、また来ます」
「有空時我們會再來」
「はい、待っていますよ」
「嗯,我等你們來」
「それでは」
「那麼」
「さようなら」
「再見了」
旅の終着点に待っていたものは、年老いたひとりの母だった。
在旅途的終點等待的,是一位年老的祖母。
そして、俺はここで、かけがえのないものを得た。
在這裡,我得到了無可取代的東西。
一生、その思いを抱いて、生きる。
我將永遠懷抱著這份心情。
こいつと、一緒に。
與這孩子一起活下去。

「なぁ…汐」
「吶…汐」

「…ん?」
「…嗯?」
「ママの話、聞きたいか」
「想聽媽媽的故事嗎?」
「…うん」
「…嗯」
「そっか。よし…じゃ、話してやる」
「這樣呀,那好…我現在就告訴你」
「こっちこい」
「來這邊坐」
窓から離れて、俺の腰にくっついて座り直した。
汐從窗戶邊離開,坐到了我的腿上。。
「ママはな、いつだって、泣いてるような奴だった」
「媽媽她呀,是個愛哭鬼」
「出会ったときもさ、自信がなくて、弱くて…学校の坂の下でずっと立ち尽くしてたん」
「和爸爸相遇的時候既軟弱、又沒有自信…只會一直站在學校的坡道下」
「その坂の下で、なんて言ってたと思う?」
「站在坡道下時,你猜她當時說了什麼?」
「目つぶって、あんパンっ、だって」
「她閉著眼睛說『紅豆麵包』」
「あいつの癖だったんだ」
「這是她的習慣」
「一歩を踏み出すために、食べたいものを声に出して、それで勇気を奮い立たせる…」
「為了能下定決心,她把想吃的東西對自己說出來,讓自己鼓起勇氣…」
「かわいい癖だろ…。だって、すごく謙虚だからさ…」
「很可愛的習慣吧…。那是因為她實在是太謙虛了…」
「学校のパンって、競争率高くてさ…人気のあるパンを手に入れるのは難しくてさ…」
「學校的麵包競爭率相當高…受歡迎的麵包往往很難買到…」
「だから、いつも売れ残るあんパンなんかで、あいつ…」
「所以,她總是只能選擇賣剩下的麵包…」
「でも、俺と付き合い始めてからは、そんな癖もなくなっていったんだ」
「不過,和爸爸開始交往之後,她那個習慣就漸漸改掉了」
「あいつは俺を支えにしてくれたんだ…」
「因為有我在鼓勵著她了…」
「俺も支えられた」
「而我也被她鼓勵著」
(BGM:Ana)
「ふたりで、支え合って、学校生活を送り始めたんだ」
「兩個人互相支持著,開始了新的學校生活」

「ふたりで、潰れた演劇部をもう一度立て直そうとした」
「兩個人一起重建了已經廢社的戲劇社」
「演劇ってわかるか。お芝居だな」
「戲劇你知道嗎?就是演戲」
「あいつ、演劇やったことも見たこともねぇのに、演劇をしたいって言うんだぜ?」
「她既沒有演過話劇,也沒有看過話劇,卻說想要演話劇」
「おかしいだろ…」
「很奇怪吧…」

「そのために、どうしてか、バスケの試合もした」
「途中還莫名其妙地打起籃球賽」
「バスケってのは、ボールを使って点を取り合うゲームだな」
「籃球是一種用球來得分的遊戲」
「相手は毎日バスケをしてるような連中だった」
「對手是那些每天都在打籃球的傢伙」
「でも、俺たちは勝った」
「但是,我們還是贏了」
「ママはこう言ってた」
「媽媽那時候是這麼說的」
「短い時間で、毎日バスケを練習してる奴らよりも、俺たちは絆が深まったんだって」
「我們在短時間內,比那些每天練習籃球的隊員們,建立了更深固的羈絆」
「すごく喜んでた…」
「她說這句話的時候非常的開心…」
「ママはみんなでひとつになって頑張ることが大好きだったんだ…」
「媽媽她最喜歡和大家在一起,為了同一個目標而努力…」
「学校にお祭りの日がやってきた…」
「在學校的校慶那一天…」

「演劇部として、ママはひとりで舞台に立った」
「媽媽作為戲劇社代表一個人上台演出」
「すごい数の人前でさ、お芝居をするんだ」
「在那麼多人面前表演的她」
「あんなに不器用で、あがり症だった奴がだよ」
「本來還是個那麼笨拙又怕生的人」
「その前に問題が起きて、あいつ、結局、舞台で大泣きしたけどさ…」
「當時還發生了一些問題,結果她就在舞台上大哭了起來…」
「でも最後まで、ちゃんと芝居をした」
「不過最後還是演了下去」
「やりきった」
「漂亮地完成了表演」
「最後にさ…大好きなだんご大家族の歌を歌ってさ…」
「最後…還唱了她最喜歡的糰子大家族的歌…」
「だんご、だんごっ…ていう歌」
「糰子、糰子…這樣唱的歌」
「あいつが大好きな歌なんだ」
「這是媽媽最喜歡的歌」
「それで、みんな転けさせたけどな…」
「這讓大家跌破了眼鏡…」
「あいつは、そうして俺やみんなの夢を同時に叶えたんだ」
「她就這樣實現了大家的夢想」
「みんなの…いい思い出だ」
「同時也讓大家…留下了美好的回憶」
「でも、それからは、また、体の調子が悪くなって…」
「但是在那之後,她的身體狀況開始惡化…」
「学校を長く休むようになった」
「休學了很長的一段時間」

「俺ひとりが卒業して…」
「我一個人先畢業…」
「あいつは、また学校でひとりぼっちになったんだ…」
「她在學校又再次變成孤單一個人了…」
「でも、あいつは学校を辞めずに、ひとりで頑張ることを選んだ」
「但是,她並沒有放棄學業,選擇自己一個人繼續努力」

「やがて、ふたりで暮らすようになって…」
「之後,兩個人終於住在一起了…」
「一年頑張ったら、強くなってるから、ってお互いを励ましあって…」
「我們互相鼓勵著,共同努力了一年,變得更加堅強…」
「人よりも、時間がかかったけど…」
「花了比別人更長的時間…」
「人よりも、たくさんの苦労をしたけど…」
「付出了比別人更多的辛勞…」
「最後には、学校も卒業した」
「最後,她終於也從學校畢業了」
「それからは慎ましやかに家庭を守るようにふたりで生きた…」
「接下來兩個人一起守護著這個家,過著儉樸的生活…」
「そんな中で、ママはおまえを身ごもった…」
「在那段時間中,媽媽懷了你…」
「そして…」
「然後…」

「母親の強さで…おまえを、産んだ」
「媽媽堅強地…將你生下來了」
「出会った時は、あんなに弱かったあいつが…」
「第一次相遇的時候,她明明是那麼地軟弱…」
「最後には、強く生きたんだ…」
「但最後卻已變得如此堅強…」
「本当に、強く…」
「真得,很堅強…」
「汐…」
「汐…」
「おまえは、そんな強かったママの…子供なんだぞ」
「你是如此堅強的媽媽所…生下的孩子呀」
ああ…今、俺は、痛いほどに思い出している。
啊啊…我現在正痛苦地回想著當時的回憶。
俺は、あいつが好きだった。
我喜歡渚。
本当に、好きだった。
真得很喜歡她。
誰でもない、渚が好きだった。
只喜歡渚一個人。
あの控えめな渚が好きだった。
喜歡那個害羞內向的渚。
たまに意地になる渚が好きだった。
喜歡那個偶而很固執的渚。
笑顔がかわいい渚が好きだった。
喜歡那個笑容很可愛的渚。
そして…
還有…
いつだって俺のためにそばに居てくれた渚が好きだった。
喜歡那個無論何時都陪伴在我身旁的渚。

今はもう、ない校舎、あの部室で…
現在已經不在的那棟校舍,那間社團教室…
渚は、自分の名前の隣に、俺の名前を書き足す。
渚在自己的名字旁寫下了我的名字。

「わたしひとりにしたら、ダメです」
「不要丟下我一個人」
「なんでも、一緒がいいです」
「無論做什麼都要在一起」
「ずっと、一緒です…えへへ」
「永遠在一起…欸嘿嘿」

逸る俺の気持ちを落ち着けようと、笑ってくれた。
為了讓我冷靜下來,而露出微笑

「落ち着いてください、朋也くん」
「請冷靜下來,朋也君」
「わたしはどこにも行かないです」
「我哪裡都不會去的」
「ずっと、朋也くんのそばにいます」
「我會一直陪伴在朋也君身邊」

闇の底に突き落とされた俺を…救い出してくれた。
把墜入黑暗深淵的我…救了出來。

「なら、すがってください」
「那麼,請依靠著我吧」
「わたしは朋也くんのために今、ここにいるんです」
「現在的我就是為了朋也君而站在這裡的」
「他の誰のためでもないです」
「不是為了其他人」
「朋也くんのため、だけにです」
「就只為了朋也君」
「ずっとそばに居ます」
「我會一直陪伴在你身邊」
「どんなときも、いつまでも、そばに居ます」
「無論何時,我都會一直陪伴在你身邊」

なのに…
既然如此…
どうして…
為什麼…
今、おまえは隣にいないんだよ…
現在你卻不在我身邊了…
どうして、俺をひとりにしていったんだよ…
為什麼,讓我變成孤單一個人了…
なんでも一緒がよかったのに…
只要能一直在一起就好了…
ずっと、一緒でいたかったのに…
永遠在一起就好了…
いつまでもそばにいてくれるって言ってたのに…
不是說好了要永遠陪伴在我身邊了嗎…
どうして、おまえが先にいなくなってしまったんだよ…
為什麼,你還是先走了呢…
「渚…」
「渚…」
「渚ぁ…」
「渚-…」
ぼろぼろと目から涙が零れていた。
眼淚簌簌地流了出來。
どうにも、止めることができない。
不管怎麼樣都停不下來。
拭いても、拭いても、流れ落ちてくる。
就算擦了再擦,還是會流出來。
「はは…ははは…」
「哈哈…哈哈哈…」
笑いながらも、俺は泣き続けた。
不管再怎麼笑,還是無法停止哭泣。
ずっと、泣いてなかったのに…。
明明一直沒有哭過…
夢中で生きてきたはずなのに…。
明明一直都在想著如何生活下去…。
ああ…もう、俺は受け入れてしまったんだ…。
啊啊…我總算能接受了嗎…。
あの日から、5年が過ぎて…
從那天以來,已經過了五年了…
そして、今、俺の隣には渚がいない。
然後現在渚已經不在我身邊了。
その現実を。
那就是現實。

「パパ…」
「爸爸…」
「ああ…なんだ」
「啊啊…怎麼了」
「…おしっこ」
「…我想尿尿」
「ああ…場所はわかるか?」
「啊啊…知道地方嗎?」
「…うん」
「…嗯」
「ひとりでできるか?」
「一個人可以嗎?」
「…うん」
「…嗯」
よいしょ、と椅子から飛び降りて、駆けていった。
嘿咻的一聲,汐從椅子上跳了下來,跑了出去。
俺はその間に涙を拭いた。
我趁著這段時間擦去的眼淚。
しばらくして、汐が戻ってくる。
過了一會兒,汐回來了。
「ひとりでできた」
「一個人上好了」
「そうか。えらいな、汐は」
「是嗎。汐好厲害呀」
「…うんっ」
「…嗯」

汐は、誇らしげに小さな胸を張った。
汐很開心地挺起了小小的胸膛。